なぜPOHに速度系は計器速度で書かれているのか?

事業用操縦士

失速速度など速度は計器速度で書かれています。高度が違く外の大気の密度が違うのにTAS(真対気速度)を使わないでいいのか疑問に思う人もいると思います。

そのような疑問を解消していきたいと思います。

揚力の式に出てくる速度はIAS?TAS?

飛行機の揚力を表す有名な式があります。

L =1/2✖️ρS VCL

S=翼面積 CL=揚力係数

ここで気になるのが 「このVは何の速度なのか?」 という点です。

ρは大気密度なので、飛行中の周囲の空気密度を指します。
ということは、Vは「真対気速度(TAS)」になります。

つまり揚力の式は本来こう書くのが正しい: L=1/2✖️ρS V TASCL


でも実際はIASで考えた方が便利

ただし毎回その高度・気温から密度ρを計算するのは面倒ですよね。

実際に飛行機の速度計(AS計)が測っているのは、

  • ピトー管が測る「全圧」 PT
  • 静圧孔が測る「静圧」  PS

この差(動圧)がどのくらいかです。

ベルヌーイの定理より:PT=PS+1/2✖️ρVTAS2

なので、真対気速度は VTAS = √2(PTーPS)/ρ

と表せます。


IASとTASの関係

もし大気が国際標準大気(ISA)で、密度が基準値​ρ
なら、速度計が示すのは ​​V IAS = √2(PTーPS)/ρ

です。

この2つを比べると: VTAS =√ρ/ρ✖️V IAS

となります。

これを揚力式に代入すると: L =1/2✖️ρS V IASCL

となり、密度ρの変数が消えて ρ0 という定数だけが残ります
つまり、IASを使えば揚力を簡単に計算できるのです。


IASと迎角の関係

さらに水平飛行中なら、揚力は重量と釣り合っています。 L=W=mg

L = W = mg = 1/2✖️ρS V IASCL

となり変形すると: V IAS =√2mg/ρS CL

ここで定数は mg、ρ0、S、なので、変数は CL​ のみ。
そして CLは迎角だけで決まります。

分かること

  • 同じ機体・同じ重量であれば、失速迎角は一定 → 失速IASは高度に関係なく一定
  • だから「計器速度で失速速度が決まる」という教科書的な話はここから出てくる。
  • 他の離陸速度やVFE V NE VNOなども全て計器速度で表記されているの同様です。
  • 高高度で空気が薄くても、IASは同じ → でもTASは大きくなる(密度 ρが下がるから)。

数式がサイト上だとわかりにくいかもしれないので手書きで補足画像を載せときます

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