前方重心と後方重心について、試験ではたびたび聞かれます。
特に前方重心だとなんで安定性が上がるのか、なぜ失速速度が上がるのか疑問に思う人も多いと思います。
今回はそういう方には特に読んでほしい内容になっています。基本的に誰もが躓く部分だと思いますのでしっかり理解してほしいと思います。
大前提
- 重心(CG)=機体全重量が一点に集約しているとみなせる点。
- 絶対に守るのは機体ごとに定義された許容範囲
- モーメントとは物体にかかる回転力を測るもので
基準からの長さ(アーム)✖️ 力
で表すことができます。
ポイント:主翼は揚力中心で上向きの力を生み、水平尾翼は下向きの力(ダウンフォース)を生むことで機体のバランスをとっています。
また注意事項を挟んでいますのでしっかり読むことをお願いします。(読まないと理解できない部分が出てくるかもしれません。)
前方重心、後方重心の特徴
前方重心、後方重心の特徴は以下の通りです。
なぜこのようになるのか理由を下にまとめています。
まずは特徴を把握しましょう。
前方重心
安定性上がる
操縦性が悪い
燃費悪化
失速速度増加
失速からリカバリーしやすい
後方重心
安定性下がる
操縦性が良い
燃費良くなる
失速速度減少
失速からリカバリーしにくい
前方重心、後方重心の力学的説明



となり、前方重心であるF2 が大きいことがわかる。
→水平飛行する時でも、上昇する時でも下降する時でも同じだけ変化量を加えたい場合は前方重心の方が水平尾翼の力が必要になるということです。
前方重心でなぜ安定性が上がるのか
図で示すように、前方重心だと水平尾翼で生み出す下の力が必要になってくる。

そのため先ほど揚力中心を基準にしてモーメントを計算してましたが、今回は重力Wをモーメントの基準として説明していきます。
ではもう一度説明します。機首が下がると翼の迎角が減り揚力が減少します。この揚力の減少は主翼の上方向の力、水平尾翼の下方向の力どちらとも減少します。
計算がとても難しいのですが、主翼の揚力減少の変化量と水平尾翼の揚力減少の変化量を比較したとき主翼の揚力減少の変化量の方が大きいです。
相対的に水平尾翼の下の力の方が影響力があるということです。
そして水平尾翼までのアームの長さが長いためモーメントが以下のようになります。
主翼の反時計方向のモーメントより水平尾翼の時計方向のモーメントの方が大きくなり機首が上がることになります。
→重心が後ろに行くにつれ水平尾翼までのアームが短くなるため時計方向のモーメントが小さくなるため前方重心ほど安定性があると分かります。
重心が揚力中心より後ろにある場合はどうなるか。
水平飛行時の水平尾翼の力の向きはモーメントの向きの釣り合いの関係で上方向になります。

先程と同様に機首が下がると迎角が減少して、主翼と水平尾翼どちらも揚力は減少します。
主翼の揚力の減少が水平尾翼のものより大きくアームが重心位置から水平尾翼までが長いことも同様です。
水平尾翼の反時計周りのモーメントの影響が大きく、より機首を下げることになります。
→安定性がない(不安定)
操縦性に関して
前方重心の方が操縦性が悪化し、後方重心であればあるほど操縦性は良くなります。
これは安定性の対義だと思ってくれれば構いません。
安定性が良いということは機首が下がっても元に戻ろうとするということです。操縦桿を動かしても元に戻るように力が入ってしまうということは操縦性が悪いことにつながります。
→前方重心であればあるほど操縦性悪化
燃費について


前方重心であればあるほど、今まで説明した通り水平尾翼が生み出す下方向の力が必要になってくる。つまり重力方向の力と釣り合うように揚力を生み出さなくてはいけないから、前方重心であればあるほど必要な揚力は増える。
→揚力が増えるということはその分、抗力が増えるということになる。
→抗力が増えることは同じ燃料でいける距離が少なくなるということにつながるため燃費が前方重心ほど悪いということになる。
失速速度に関して
そもそも失速とは、ある一定の迎角(臨界迎角(critical angle of attack))を超えることで翼上部に流れる空気が剥離して揚力を生み出すことができなくなって起こるものである。
失速速度ということはその速度未満で失速が起こるということは失速の本質とは違う。
失速速度より速度が小さくなったから失速するということは間違ってはいない。実際は速度が小さくなった時、生み出す主翼の揚力を保つには、機首をあげ迎角を大きくすることで揚力係数を増やし。

揚力係数はある一定の迎角を過ぎると空気が剥離し下がっていくため、速度が小さいまま一定であるとするなら、揚力が生み出せなくなり失速するということである。
さて失速が理解できたところで前方重心との関係に注目してみる。前方重心ということは水平尾翼の重力方向に働く力が大きいということ。つまり飛行機自体の重さと水平尾翼の働く力の合算分の主翼が生み出す揚力も同様に増加して必要になる。

前方重心ほどF1 が必要になる。
揚力F1を得たい時、揚力係数が最大(臨界迎角(critical angle of attack))ならば、速度はある一定な値一つに決まる。その速度が失速速度になり、その速度未満の時は必要な揚力F1を生み出すことができていないということになる。

前方重心であるほど必要な揚力F1が大きくなり、それに伴い、必要な速度は大きくなる。(失速速度が増加する)
失速速度など速度系がなぜ計器速度であるか気になる方はこちらへどうぞ
失速からのリカバリーについて
失速している時はもちろん主翼も水平尾翼も揚力が共に減少している状態になります。安定性の時にも話したように、水平尾翼までのアームが長いことで力の変化量に対するモーメントの影響力がかなり大きいです。
→揚力を失い水平尾翼の下方向のモーメントがかなり弱まることにより、相対的に機首が下がることにつながります。=失速からのリカバリーがしやすい。
もちろん前方重心であればあるほど水平尾翼までの重心位置からの距離(アーム)が長いのでモーメントの影響力が強い。→前方重心であればあるほどリカバリーがしやすい。
覚えるだけなら、頭(機首)が思いならそりゃ機首が下がるよなぐらいに考えればいいと思います。
まとめ
ポイントは前方重心であればあるほど必要な水平尾翼の重力方向の力が増加することである。このことを頭に入れて考えれば理解しやすいはずです。
一回理解すれば暗記しなくても導き出せるはずですし、なぜそうなるのかも説明できればなお試験官からの印象も良くなるはずです!
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