MAYDAY PANPANの違い

事業用操縦士

航空機の緊急事態における通信は、パイロットの一生で一度あるかないかの重要な場面です。しかし、この宣言が必要な事態では、遅滞なく正しい用語を使って適切な援助を得ることが、事態の悪化を防ぎ、最善の結果をもたらします。

本記事では、MAYDAY、PAN PAN、DECLARE EMERGENCYの違いについて、ICAO国際基準、日本の法規制、実際の運用事例を踏まえて詳しく解説します。

MAYDAY(メーデー):遭難通報

ICAO Annex 10による定義

Distress(遭難状態)重大かつ差し迫った危険に晒されており、かつ直ちに援助を必要とする状態

電波法52条

遭難通信:船舶又は航空機が重大かつ急迫の危険に陥った場合に遭難信号を前置する方法により行う無線通信

通信手順

“MAYDAY, MAYDAY, MAYDAY”

(可能な限り3回繰り返し)

その後、航空機識別符号、緊急状態の内容、位置、意図等を明確に通報

使用するべき場面

  • エンジン火災発生
  • 双発機の両エンジン停止
  • 操縦不能状態
  • 機長の意識不明
  • 燃料切れによる不時着
  • 構造的損傷で飛行困難
  • 飛行場等への到達が困難
  • 消火・救難が必要な状況
    などなど

ICAOの定義通り重大かつ差し迫った危険に晒されており、かつ直ちに援助を必要とする状態の時など少なくとも不時着の可能性が高い状況や飛行場に着陸後消化、救難が必要な場合に使用します。

遭難通信のみ絶対的優先権を持つため、それ以外の航空機との通信を沈黙させることができる。

例, all stations stop transmitting. MAYDAY

実際の事例

ハドソン川の奇跡(2009年1月15日)

US Airways 1549便がニューヨーク・ラガーディア空港離陸直後、鳥の群れと衝突し両エンジンが推力を失った事例

“MAYDAY MAYDAY MAYDAY, Cactus 1539 hit birds. We’ve lost thrust on both engines. We are turning back to La Guardia.”

出典:NTSB事故調査報告書

PAN PAN(パンパン):緊急通報

ICAO Annex 10による定義

Urgency(緊急状態):航空機または搭乗者について安全上の懸念があるが、直ちに援助を必要としない状態

電波法52条

緊急通信:船舶又は航空機が重大かつ急迫の危険に陥るおそれがある場合その他緊急の事態が発生した場合の通信

通信手順

“PAN PAN, PAN PAN, PAN PAN”

(可能な限り3回繰り返し)

“PAN PAN, PAN PAN, PAN PAN, Atsugi TWR, JA123A, engine failure, returning to Atsugi, request priority landing”

使用すべき場面

  • 双発機の片方エンジン故障
  • 燃料不足(まだ余裕あり)
  • 重要計器類の故障
  • 医療上の緊急事態(重篤でない)
  • 悪天候回避で緊急許可必要
  • 飛行場等への到達に見込みあり
  • システム故障(飛行継続可能)

など航空機や搭乗者に安全上の問題が発生したが即時の援助が必要ない場合に使用。

実際の事例

カンタス航空32便(2010年11月)

シンガポール離陸後約7,000ftで2番エンジンがUncontained Failureを起こした事例

パイロットはPAN PANで状況を通報。エンジンの損傷は甚大だったが、着陸までの飛行継続は可能と判断された。

結果的にはMAYDAYでも妥当な状況だったが、判断時点での情報に基づく適切な宣言例

出典:ATSB事故調査報告書

DECLARE EMERGENCY:国際標準外の表現

重要な注意事項

“EMERGENCY”はICAO Annex 10で規定された正式な緊急信号ではありません

ICAO基準との相違

  • ICAO Annex 10では正式な信号として規定されていない
  • 国際的な標準通信方式に含まれない
  • 各国での解釈にばらつきが生じる可能性

日本での実情

  • 長年の実務で”EMERGENCY”が慣用的に使用
  • 管制方式基準では実質的に優先取扱い
  • パイロット・管制官とも馴染みが深い表現

EMERGENCYは広い意味での緊急事態を示す言葉として用いられるが遭難(distress)緊急(urgent)かの区別が明確ではない。

そのため、国際的にも使用するべきではないと個人的には考える。

運用上の取り扱い

管制方式基準(VI)緊急方式 3管制方式

次に掲げる場合には、管制上優先的取扱いをするものとする:

  • 航空機が「メーデー」又は「パンパン」を通報した場合

日本ではPANPANで通報した航空機にも管制上の優先的取り扱いが行われるが他国では優先的に扱われないこともあるため注意が必要です。(AIM -J 733)

また、遭難通信、緊急通信を行なった場合は文書による報告の義務が発生します。

まとめ

MAYDAY使用の判断

  • • 生命に直接的危険がある
  • • 飛行継続が困難または不可能
  • • 即座の援助なしでは墜落の危険
  • • 消火・救難活動が必要

参考資料1
参考資料2

免責事項:本記事は2025年時点の情報に基づいており、法規制や運用基準は変更される可能性があります。実際の運用においては、最新の法令・基準を確認の上、適切な判断を行ってください。

また、実際の緊急事態における判断は各自の責任で行ってください。

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