76条報告の義務、VOICESなど パイロットにおける報告に関して まとめ

事業用操縦士

機長の義務と権限のときに話したとおり、航空機が事故したり、重大インシデントになったり、異常事態が起きた時は、その事象について報告しなくてはなりません。今回は、パイロットが法律的に決まっている報告をしなくてはいけないことから、安全のために自発的に報告するVOICEという制度について詳しく解説していきたいと思います。

航空法76条(事故報告)

76条は事故報告の義務ということで。事故が起きた場合に機長が国土交通大臣にその旨を報告しなくてはならないということが書いてあります。

航空法76条

機長は、次に掲げる事故が発生した場合には、国土交通省令で定めるところにより国土交通大臣にその旨を報告しなければならない。ただし、機長が報告することができないときは、当該航空機の使用者が報告しなければならない

一 航空機の墜落、衝突又は火災
二 航空機による人の死傷又は物件の損壊
三 航空機内にある者の死亡(国土交通省令で定めるものを除く。)又は行方不明
四 他の航空機との接触
五 その他国土交通省令で定める航空機に関する事故

2 機長は、他の航空機について前項第一号の事故が発生したことを知つたときは、無線電信又は無線電話により知つたときを除いて、国土交通省令で定めるところにより国土交通大臣にその旨を報告しなければならない。

どんな事故を報告するのか

一 航空機の墜落、衝突又は火災
二 航空機による人の死傷又は物件の損壊
三 航空機内にある者死亡(国土交通省令で定めるものを除く。)又は行方不明
四 他の航空機との接触
五 その他国土交通省令で定める航空機に関する事故

5番目についてですが、航空法施行規則165条の3に記載があります。

航空法施行規則165条の3

法第七十六条第一項第五号の国土交通省令で定める航空機に関する事故は航行中の航空機が損傷(発動機、発動機覆い、発動機補機、プロペラ、翼端、アンテナ、タイヤ、ブレーキ又はフェアリングのみの損傷を除く。)を受けた事態(当該航空機の修理が第五条の六の表に掲げる作業の区分のうちの大修理に該当しない場合を除く。)とする。

この施行規則では航空機が損傷しても事故扱いにはなるが、損傷した部位や損傷の重さによって事故扱いになるかどうかが決まるということです。

また76条の2項には、航空事故を他からの通報で知った場合、つまり又聞きした場合は報告の義務はありません。

航空法76条第3項(異常事態報告)

76条3項

機長は、飛行中航空保安施設の機能の障害その他の航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれがあると認められる国土交通省令で定める事態が発生したことを知つたときは、他からの通報により知つたときを除いて、国土交通省令で定めるところにより国土交通大臣にその旨を報告しなければならない。

航空法施行規則166条の2

法第七十六条第三項の規定により機長が報告しなければならない事態は、次のとおりとする。
一 空港等及び航空保安施設の機能の障害
二 気流の擾じよう乱その他の異常な気象状態
三 火山の爆発その他の地象又は水象の激しい変化
四 前各号に掲げるもののほか航空機の航行の安全に障害となる事態

航空法76条の2(異常接近、重大インシデント報告)

これは、事故には至らなかったものの、事故につながる可能性が高い事態について報告義務を課すことで、予防的な安全対策の充実を図ることを目的としています。

76条の2には事故が発生する恐れのある事態(重大インシデント)があった場合には機長は報告しなくてはならないというものです。

重大インシデントとして航空法施行規則に具体的な事案として18個挙げられている。

76条の2 

機長は、航行中他の航空機との衝突又は接触のおそれがあつたと認めたときその他前条第一項各号に掲げる事故が発生するおそれがあると認められる国土交通省令で定める事態が発生したと認めたときは、国土交通省令で定めるところにより国土交通大臣にその旨を報告しなければならない。

航空法施行規則166条の4

法第七十六条の二の国土交通省令で定める事態は、次に掲げる事態とする。
 一 次に掲げる場所からの離陸又はその中止
   イ 閉鎖中の滑走路
   ロ 他の航空機等が使用中の滑走路
   ハ 法第九十六条第一項の規定により国土交通大臣から指示された滑走路と  は異なる滑走路
   ニ 誘導路
 
 二 前号に掲げる場所又は道路その他の航空機が通常着陸することが想定されない場所への着陸又はその試み
 
 三 着陸時において発動機覆い、翼端その他の航空機の脚以外の部分が地表面に接触した事態
 
 四 オーバーラン、アンダーシュート及び滑走路からの逸脱(航空機が自ら地上走行できなくなつた場合に限る。)
 
 五 非常脱出スライドを使用して非常脱出を行つた事態
 
 六 飛行中において地表面又は水面への衝突又は接触を回避するため航空機乗組員が緊急の操作を行つた事態
 
 七 発動機の破損(破片が当該発動機のケースを貫通した場合に限る。)
 
 八 飛行中における発動機(多発機の場合は、次のイ又はロに掲げる航空機の区分に応じ、当該イ又はロに定める数以上の発動機)の継続的な停止又は出力若しくは推力の損失(動力滑空機の発動機を意図して停止した場合を除く。)
  イ ロに掲げる航空機以外の航空機 
  ロ 垂直離着陸飛行機及びマルチローター 垂直離着陸飛行機又はマルチローターの型式ごとに、継続的な停止又は出力若しくは推力の損失により、当該垂直離着陸飛行機又はマルチローターの航行が継続できなくなるおそれがある発動機の数として国土交通大臣が定める数
 
 九 航空機のプロペラ、回転翼、脚、方向舵だ、昇降舵だ、補助翼又はフラップが損傷し、当該航空機の航行が継続できなくなつた事態
 

 十 航空機に装備された一又は二以上のシステムにおける航空機の航行の安全に障害となる複数の故障
 
 十一 航空機内における火炎又は煙の発生及び発動機防火区域内における火炎の発生
 
 十二 航空機内の気圧の異常な低下
 
 十三 緊急の措置を講ずる必要が生じた燃料の欠乏
 
 十四 気流の擾乱その他の異常な気象状態との遭遇、航空機に装備された装置の故障又は対気速度限界制限荷重倍数限界若しくは運用高度限界を超えた飛行により航空機の操縦に障害が発生した事態
 
 十五 航空機乗組員が負傷又は疾病により運航中に正常に業務を行うことができなかつた事態
 
 十六 物件を機体の外に装着し、つり下げ、又は曳航している航空機から、当該物件が意図せず落下し、又は緊急の操作として投下された事態
 
 十七 航空機から脱落した部品が人と衝突した事態
 
 十八 前各号に掲げる事態に準ずる事態

事故報告、異常接近報告、重大インシデントの報告方法

事故報告、重大インシデント報告は、事後速やかに報告書を最寄りの空港事務所or空港出張所or航空局安全部航空安全推進室に提出します。

様式に関してはAIP ENR1.14にあります。

異常接近の報告に関しては、他の航空機との衝突、接触の恐れがあったと認めた場合は無線で最寄りの管制機関、管制通信機関、管制運航情報機関に通報します。

無線で報告する時は、通報の初めに「異常接近」か「NEAR COLLISION REPORT」を使用します。

また着陸後に報告書を航空局安全部航空安全推進室長に提出します。

これも様式に関してはAIP ENR1.14にあります。

その他の報告

鳥衝突報告

AIC 010/22より鳥衝突(バードストライク)が発生した時の措置について記載があります。

鳥衝突または鳥とのニアミスがあった際は、鳥衝突情報共有サイトを通じて報告。

もしくは、鳥衝突報告を作成しメール又は郵送により提出します。

VOICES(航空安全情報自発報告制度)

AIC 034/14 より、自発的報告制度は、法定の報告義務を超えて、航空安全に関する情報を任意で報告する制度です。この制度は、予防安全(Proactive Safety)の観点から、事故に至る前の段階での安全情報の収集を目的としているものです。

VOICESのサイトはこちらから

報告対象事象は、 航空活動を行う中で自ら経験した又は視認した航空の安全上の支障を及ぼす可能性があったと思われる事象です。

(人から聞いた伝聞はダメ)(当事者でなくても視認したりでもOK)

制度の特徴

  • 任意性: 報告は完全に任意であり、強制されない
  • 匿名性: 報告者の身元は保護され、匿名性が確保
  • 非懲罰性: 報告を理由とした処分は原則として行われない
  • 教育活用: 収集情報は安全教育・啓発に活用

報告すべき事例

  • ヒヤリハット事例: 事故には至らなかったが危険を感じた事例
  • システム上の問題: 航空保安システムや手続きの改善点
  • ヒューマンエラー: 人的要因による問題とその背景
  • 組織的要因: 組織・管理上の問題点

安全に支障を及ぼす事象の報告(おまけ)

76条の事故報告や重大インシデント報告は機長が報告するというものだったが111条の4は運送事業者が報告するものになっている。76条の事故や異常接近、重大インシデントが起きた時は機長だけでなく事業者も報告しなくてはいけないのです。

航空法111条の4

本邦航空運送事業者は、国土交通省令で定める航空機の正常な運航に安全上の支障を及ぼす事態が発生したときは、国土交通省令で定めるところにより、国土交通大臣にその旨を報告しなければならない。

航空法施行規則221条の2

法第百十一条の四の国土交通省令で定める事態は、次に掲げる事態とする。
一 法第七十六条第一項各号に掲げる事故
二 法第七十六条の二に規定する事態
三 航空機の航行中に発生した次に掲げる事態
イ 航空機の構造が損傷を受けた事態(当該航空機の修理が第五条の六の表に掲げる作業の区分のうちの大修理又は小修理に該当しない場合を除く。)
ロ 航空機に装備された安全上重要なシステムが正常に機能しない状態となつた事態
ハ 非常用の装置又は救急用具が正常に機能しない状態となつた事態
ニ 運用限界の超過又は予定された経路若しくは高度からの著しい逸脱が発生した事態
ホ イからニまでに掲げるもののほか、緊急の操作その他の航行の安全上緊急の措置を要した事態
四 前三号に掲げるもののほか、航空機の構造の損傷、非常用の装置の故障、装備品等の誤つた取付けその他の航空機の正常な運航に安全上の支障を及ぼす事態

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