安全に飛行するためには、様々な飛行規制空域について正しく理解しておく必要があります。一見自由に見える空域にも、実は多くの制限や規制が設けられています。今回は、パイロットが必ず知っておくべき飛行規制空域について、解説します。
飛行規制空域とは
飛行規制空域とは、航空機の安全な運航を確保するため、または特定の活動を保護するために、飛行が制限または禁止されている空域のことです。
定義はないですが、飛行制限区域や飛行禁止区域など、規制されている空域全般を表す言葉だと思ってくれれば大丈夫です。
飛行禁止区域と飛行制限区域
飛行が禁止されている空域がある。それが飛行禁止空域と飛行制限空域である。
似ているようで二つの空域には違いがある。
飛行を全面的に禁止するか一定の条件のもとに禁止するかである。
航空法80条
航空機は、国土交通省令で定める航空機の飛行に関し危険を生ずるおそれがある区域の上空を飛行してはならない。但し、国土交通大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。
但し書きにもあるとおり、許可があれば飛行禁止区域、飛行制限区域を飛行することができる。
航空法施行規則173条
法第八十条の規定により航空機の飛行を禁止する区域は、飛行禁止区域(その上空における航空機の飛行を全面的に禁止する区域)及び飛行制限区域(その上空における航空機の飛行を一定の条件の下に禁止する区域)の別に告示で定める。ただし、緊急に航空機の飛行を禁止する区域を定める必要があるため、告示により当該区域を定めるいとまがないときは、国土交通大臣は、その必要な限度において、告示をしないで、飛行禁止区域又は飛行制限区域を定めることができる。
飛行禁止区域
現在飛行禁止区域は日本には存在しない。(2025年10月)
過去の事例として、福島の原発事故があった時に、半径30km圏内が飛行禁止空域に設定された。
飛行制限区域
現在、日本には3つの飛行制限区域が設定されています。(2025年10月)AIP ENR5.1とAIP SUP 020/13
- RJR1 車力通信所(青森)(半径6km西側、地上~FL190)
青森県つがる市にある米軍通信所周辺の制限区域です。弾道ミサイルの探知・追尾を目的とするXバンド・レーダーが設置されており、レーダー運用に支障を及ぼすため飛行が制限されています。
- RJR2 福島第一原発発電所(福島)(半径3km、地上~5,000ft)
福島第一原子力発電所を中心とする半径3km以内の区域で、地上から高度5,000ftまでが制限されています。この区域の詳細情報はAIP SUPsで確認できます。
- RJR3 経ヶ岬通信所(京都)(半径6km北側、地上~FL190)
京都府京丹後市にある米軍通信所周辺の制限区域で、車力通信所と同様にXバンド・レーダーが設置されています。
これの他に国際的なイベント時には飛行制限区域が期間限定的に指定されることもある。
広島のG7サミットの時や東京オリンピックの時に設定された。(国交省のリンク埋め込み)
危険空域
危険空域は、権利のない航空機に危険を及ぼす可能性のある活動が含まれる空域です。現在、日本国内には危険空域は設定されていません。危険空域の情報はAIP ENR5.1で確認することができます。
空域制限
自衛隊や米軍の演習場周辺には「空域制限」が設定されており、射撃訓練などの演習が実施される期間中は飛行が禁止されます。制限空域(Restricted area)(Warning area)と呼ばれるこれらの区域で訓練が行われている際に飛行することは、極めて危険な行為となります。
空域制限の表記方法:
- 自衛隊演習場:「R-114」のように「R」と3桁の数字
- 米軍演習場:「W-179」のように「W」と3桁の数字、または「WHITE BEACH AREA」のような地名
これらの情報はAIP ENR5.1で確認できます。
飛行が制限される期間についてはAIP SUPに記載があったり、NOTAMに記載があったり、常時制限されてたりなど個々の区域によって異なるため確認が必要です。
まずはAIP ENR5.1で確認しましょう。
自衛隊訓練試験空域]
自衛隊の航空機が訓練飛行や試験飛行を行うための専用空域のこと。
AIP ENR5.2に記載
低高度訓練試験空域
- 表記:「Area 1」などの数字
- 高度:概ね10,000ft以下
- 事前調整:不要(ただし無線通信による情報収集を推奨)
高高度訓練試験空域
- 表記:「Area A」などの英字
- 高度:概ね10,000ft以上(地上から設定の場合もあり)
- 事前調整:必要 自衛隊機以外の訓練/試験機が、同空域を使用する場合には、使用統制機関と調整
超音速飛行空域
自衛隊の航空機が超音速飛行を行うための専用空域です。他の航空機とは速度帯が大きく異なるため、安全確保の観点から専用空域が設定されています。
高度はFL420以上。

こんな高高度、訓練生が飛ぶことはないですが、知識として、空域に入域するとしたら事前調整が必要です。
回廊(corridor)
自衛隊専用の航空路です。自衛隊以外が通る時は事前許可が必要です。
AIP ENR5.2にコリドーの場所が記載されています。基本的に太平洋側と日本海側を自衛隊機がスムーズに移動できるように設定されています。
以下に北海道と東北の回廊の位置を図示しておきます。
高度に関してもAIPに記載がありますが、その厚さは1000ftほどと薄いのが特徴です。


民間訓練試験空域
民間の航空機が訓練飛行や試験飛行を行うための空域です。航空法第96条の2および施行規則第202条の4により、この空域を飛行する際は航空交通情報の入手が義務付けられています。
訓練生がよくAIRWORKをする空域ですので馴染みがあるはずです
航空法96条の2
航空機は、航空交通情報圏又は民間訓練試験空域において航行を行う場合は、当該空域における他の航空機の航行に関する情報を入手するため、国土交通省令で定めるところにより国土交通大臣に連絡した上、航行を行わなければならない。ただし、前条第一項の規定による指示に従つている場合又は連絡することが困難な場合として国土交通省令で定める場合は、この限りでない。
2 航空機は、次に掲げる航行を行つている間は、前項の規定による情報を聴取しなければならない。ただし、前条第一項の規定による指示に従つている場合又は聴取することが困難な場合として国土交通省令で定める場合は、この限りでない。
一 航空交通情報圏における計器飛行方式による航行
二 民間訓練試験空域における第九十五条の三の国土交通省令で定める飛行
3 国土交通大臣は、航空交通情報圏又は民間訓練試験空域ごとに、前二項の規定による規制が適用される時間を告示で指定することができる。
民間訓練試験空域の仕様調整については詳しくは国交省のこちらのページです。
空域使用の申請は予定日の1週間前から前日の1200JSTまでで1フライトに付き一通の提出が必要です。
空域の調整は1機1空域で連続する2時間を超えない範囲で行われ、同じ時間帯に同じ空域を使用できる訓練機は1機までとなっています。
もし悪天候などのためこの空域を通過したい時は 管制機関に連絡をしなくてはなりません。



コメント