航空機の安全運航において、万が一の緊急事態に備えた装備は欠かせません。その中でも特に重要な役割を果たすのがELT(Emergency Locator Transmitter:航空機用救命無線機)です。この記事では、ELTの目的、仕組み、システム、そして搭載義務について詳しく解説します。
ELTとは
ELTは、航空機が遭難や墜落した際に、その位置を捜索救難機関に知らせるための無線装置です。航空安全の最後の砦として機能する重要な装備です。
航空機に一定の衝撃が加わった際に自動的に作動し、遭難信号を発信します。この信号により、捜索救難活動が迅速に開始され、人命の生存率向上に大きく貢献しています。
ELTの仕組みとCOSPAS-SARSATシステム
ELTの動作原理は比較的シンプルですが、その背後にはCOSPAS-SARSATシステムという国際システムが存在します。
基本的な動作メカニズム
- ステップ1:ELTが信号を発信
- ステップ2:人工衛星が信号をキャッチ
- ステップ3:地上局で位置を特定
- ステップ4:救難調整本部(RCC)が情報を分析
- ステップ5:自衛隊や海上保安庁へ出動要請
- ステップ6:救助隊が現場へ急行、ホーミング信号で捜索

COSPAS-SARSATシステムとは
COSPAS-SARSATは、世界45カ国が参加する国際的な政府間組織が運営する「衛星支援捜索救助システム」です。本部はカナダのモントリオールにあり、1982年の運用開始以来、48,000名以上の人命救助に貢献しています。
三つの異なる特性を持つ衛星群があります。その3種類の衛星群を利用して素早くELTの発信している航空機を見つけることができます。
- LEOSAR(Low-altitude Earth Orbit Search and Rescue)低軌道衛星システム
- GEOSAR(Geostationary Search and Rescue)静止衛星システム
- MEOSAR(Medium-altitude Earth Orbit Search and Rescue)中軌道衛星システム
ここでは三つの異なる衛星群を用いて位置を割り出すシステムということを覚えておいてください。
COSPAS-SARSATシステムについては詳しくは別の記事で記載します。
ELTの発信する周波数について
ELTが発信する信号の周波数は二つあります。406MHzと121.5MHzです。
406MHzは衛星に電波を届けるための周波数。GPSの位置情報、航空機の登録番号、ELT IDを送信します。
121.5MHzは近くの航空機に受信してもらうための周波数です。この信号はピュピュという音が出るようになっていて近くの航空機が遭難している航空機がいるということがわかるようになっています。
ELTの搭載義務について
航空法62条
国土交通省令で定める航空機には、落下さヽんヽ、救命胴衣、非常信号灯その他の国土交通省令で定める救急用具を装備しなければ、これを航空の用に供してはならない。
航空法施行規則150条
4 航空運送事業の用に供する最大離陸重量が二万七千キログラムを超える飛行機であつて、最初の耐空証明等が令和六年一月一日以後になされたものは、国際民間航空条約の附属書六第一部第四十八改訂版に規定する飛行機が遭難するおそれがある場合に自機の位置情報を毎分一回以上自動的に送信する機能を有する装置(次項において「遭難追跡装置」という。)又はこれと同等以上の機能を有し、かつ、衝撃により自動的に作動する航空機用救命無線機を装備しなければならない。
5 航空機は、次の表の上欄に掲げる区分に応じ、それぞれ同表の中欄に掲げる数量の航空機用救命無線機を同表の下欄に掲げる条件に従つて装備しなければならない。

航空運送事業ではない、皆さんが訓練しているような機体は表の一のロに該当する機体になります。
つまりELTを一つ装備しなくてはいけません。
→全ての航空機にELT搭載義務があるということです。
ELT警報を受信した時の対応について
先ほども述べた通り、121.5は近くの航空機が受信すると音を聴くことができます。
他の航空機はこの遭難信号を受信したら管制機関に通報しなくてはなりません。
- JA666C
- receive ELT signal
- from over sukagawa, 5500feet, 0000(最初に受信した地点)
- to over koriyama, 5500feet, 0010 (聞こえなくなった地点)
- その他
以上の要領でATCに伝達しましょう。
ELTの試験電波について
ELTの試験電波とは、航空機用救命無線機が正常に作動するかを確認するために、実際に121.5MHzの電波を発射して行う点検作業のことです。本来は遭難信号として使用される周波数を使うため、厳格な規制のもとで実施されます。
試験電波を発射する時間が決まっています。
それが毎時00分−05分の間の5分間と25分−30分の5分間です。
その期間の中で発信時間を5秒以内に収めることが総務省の告示にて求められています。
また試験電波を発射するときは国交省、防衛省、総務省に届出を提出する必要があります。



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