なぜPOHに速度系は計器速度で書かれているのか?

事業用操縦士

失速速度など速度は計器速度で書かれています。高度が違く外の大気の密度が違うのにTAS(真対気速度)を使わないでいいのか疑問に思う人もいると思います。

そのような疑問を解消していきたいと思います。

4つの「速度」を整理しよう

飛行機の「速度」には代表的なものが4つあります。まず用語を整理しておきましょう。

  • IAS(Indicated Airspeed:指示対気速度):速度計が表示している速度。ピトー管と静圧孔で測った動圧をもとに表示される
  • CAS(Calibrated Airspeed:較正対気速度):IASからピトー・静圧系統の取り付け位置による誤差(位置誤差)などを修正した速度
  • EAS(Equivalent Airspeed:等価対気速度):CASから空気の圧縮性の影響を修正した速度。小型機の速度域では圧縮性の影響はごく小さいので、実用上CASとほぼ同じ
  • TAS(True Airspeed:真対気速度):航空機が実際に大気の中を進んでいる速度。航法や飛行計画で使うのはこれ

DA42のような小型機・低速域では、IAS≒CAS≒EASと考えて差し支えありません。問題は「IAS(動圧ベース)」と「TAS(実際の速さ)」の関係です。

揚力の式に出てくる速度はIAS?TAS?

飛行機の揚力を表す有名な式があります。

L =1/2✖️ρS VCL

S=翼面積 CL=揚力係数

ここで気になるのが 「このVは何の速度なのか?」 という点です。

ρは大気密度なので、飛行中の周囲の空気密度を指します。
ということは、Vは「真対気速度(TAS)」になります。

つまり揚力の式は本来こう書くのが正しい: L=1/2✖️ρS V TASCL


でも実際はIASで考えた方が便利

ただし毎回その高度・気温から密度ρを計算するのは面倒ですよね。

実際に飛行機の速度計(AS計)が測っているのは、

  • ピトー管が測る「全圧」 PT
  • 静圧孔が測る「静圧」  PS

この差(動圧)がどのくらいかです。

ベルヌーイの定理より:PT=PS+1/2✖️ρVTAS2

なので、真対気速度は VTAS = √2(PTーPS)/ρ

と表せます。


IASとTASの関係

もし大気が国際標準大気(ISA)で、密度が基準値​ρ
なら、速度計が示すのは ​​V IAS = √2(PTーPS)/ρ

です。

この2つを比べると: VTAS =√ρ/ρ✖️V IAS

となります。

これを揚力式に代入すると: L =1/2✖️ρS V IASCL

となり、密度ρの変数が消えてρ0という定数だけが残ります。つまり、IASを使えば高度や気温に関係なく揚力を同じ式で扱えるのです。


IASと迎角の関係

さらに水平飛行中なら、揚力は重量と釣り合っています。 L=W=mg

L = W = mg = 1/2✖️ρS V IASCL

となり変形すると: V IAS =√2mg/ρS CL

ここで定数はmg、ρ0、Sなので、IASが決まればCL(揚力係数)が決まることが分かります。そしてCLは迎角と1対1で対応しているので、同じ重量・同じIASなら、高度がどこであっても迎角は同じということになります。

分かること

  • 同じ機体・同じ重量であれば、失速迎角は一定 → 失速IASは高度に関係なく一定
  • だから「計器速度で失速速度が決まる」という教科書的な話はここから出てくる。
  • 他の離陸速度やVFE V NE VNOなども全て計器速度で表記されているの同様です。
  • 高高度で空気が薄くても、IASは同じ → でもTASは大きくなる(密度 ρが下がるから)。

つまりPOHが速度をIASで書いているのは、IASで書いておけば高度・気温を問わず同じ数字がそのまま使えるからです。パイロットは高度ごとに失速速度を換算し直す必要がなく、計器が示すその数字だけを見ていればいい。

まとめ

揚力の式のVは本来TASですが、速度計が測っている動圧をベースにしたIASで書き直すと、密度の項が消えて高度・気温に依存しない形になります。だからPOHの速度はIASで書かれており、失速速度も高度によらず同じIASで発生します。

数式がサイト上だとわかりにくいかもしれないので手書きで補足画像を載せときます

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